Niflheim―うたかた― ねぇ、小さい頃の話をしようか。 小さいって言っても僕らはもう就学していたし、物心も、善悪の判断も多少は出来た頃の話を。 帰り道競走したり、丘に登って四ツ葉を探したことなんか、…もう忘れてるよね。 今思えば、幼かったなぁって感じるんだ。何も無いことが楽しくて、時間なんて無限にあった。 責任も義務も何も無い中で、唯一君といる時間だけが束縛だった、そんな時代。 それから比べると、歳を経るにつれて、周りの視線やからかいが気になり始めた僕は、 君を遠ざけていたのかな?素直さを忘れていく程に。 …そんな中で、あの日一緒に帰ろうって言ってくれた君は、どれだけの勇気を使ったんだろう。 いつもと変わらないはにかんだ目を少しだけ細めて、全身の力を込めて笑いかけてくれて いたのかも知れないのに。だから、だからその時だけは、素直になろうって決めたのに。 また昔と同じようにあの丘の上で、君は白詰草の冠を編んでくれたよね。 照れながら頭に載せる僕に、『女の子みたいで可愛い!』なんて君がはしゃぐから、 ムキになって投げ捨ててしまったんだよね・・・。 本当にごめんね。 でもね、それは怒ったからじゃないんだよ。今じゃ言い訳がましいかもだけれど、 稚拙な僕には、説明する言葉が足りなかったんだ。 冠を投げ捨てた本当の理由は・・・可愛いのは、君だけで良かったから。 僕は、そんな君を守れる強大な存在でありたかっただけなんだ。 その後は笑顔を無くして、黙りこんで、夕方になっても動かずにいたね。 その内、沈黙に耐えられなくなった僕は、何も言わずに走り去ってしまったっけ。 一瞬。 振り返った時の、寂しげに立ち尽くした君の姿なんて、目を閉じれば今でも思い出せるのに、 君の明るい声はもう思い出せないでいる。 ――それから僕らは、廊下ですれ違っても目を伏せるばかりで――――――。 ――2度と話すことなく、君は、もう――――――。 人はよく、「後悔ばかりしても前には進めない」とか、「いつか忘れられるよ」なんて簡単に言い放つけれど。 前に進みたいとは思わない。忘れたくもない。 何かに打ち込んで、何処で笑っていたって、そこに一番大切なものが欠けている。 「今ノ アナタニトッテ、 大切ナモノハ他ニモアルデショウ?」 彼女の言葉も、意思を持たない氷のように耳に届く。 何が大切で何を守りたいのか、そんなのは僕が決めることだ。 ・・・僕にとって、大切なものは1つだけだから。 オトナになって格好つけて覚えたギターを片手に、流行のメロディーに感情を載せてみたって、届くのかな? こんな陳腐な表現が。 それならもっと、小さな頃に抱えてた、拙い言葉や純粋な気持ちの方がよっぽどマシだった気がするよ。 ―― 歩き出せずにいるんじゃなくて、ここからもう動きたくないんだよ。だから、ねぇ。僕を見つけてよ――。 ――ずっとここで、星のように想いを馳せているから見つけてよ――――――。 2005年09月06日 |
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